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東京高等裁判所 昭和44年(う)1701号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官鈴木茂作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

所論第一点は被告人は運転免許を受けないで普通乗用自動車を運転するに際し、警察官に運転免許証の提示を求められたならば偽造にかかる運転免許証を提示して自己の無免許運転の事実を陰蔽し、検挙を免れようという意図のもとに、これを携帯していたのであるから、被告人の所為は、少くとも偽造公文書行使の未遂罪に該るに拘らず原判決が偽造公文書行使の訴因につき無罪を言渡したことは法令の解釈適用を誤つたものであるというのであるけれども、それだけでは内心的に行使の意思はあつても、その意思を表現する外部的行為は準備の段階に止まり、実行行為は開始もされていないのであるから被告人の所為は行使はもとよりその未遂にも当らない。このことは所論掲記の判例が「同罪(偽造公文書行使罪)にいう行使にあたるためには、文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におくことを要するのである。したがつて、たとい自動車を運転する際に運転免許証を携帯し、一定の場合にこれを提示すべき義務が法令上定められているとしても、自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、未だこれを他人の閲覧に供しその内容を認識しうる状態においたものというには足りず、偽造公文書行使罪にあたらないと解すべきである。」と判示したところから明らかというべきである。蓋し運転免許証の携帯、提示が道路交通法上義務ずけられているからといつてそのことが直ちに法域を異にする刑法犯の行使につながる訳のものではなく、又携帯していることによつて提示し得る状態にあることを飛躍的に新規、別個の行為である提示乃至これと密接不可分の行為と同視する理由もないからである。論旨は理由がない。〈以下略〉(脇田忠 高橋幹男 環直弥)

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